ギャンブル

今日はNABのもうひとつの会場サンズ・エキスポセンターへ行く日。Chipと行くので風邪のわびすけを休ませておけるのもありがたい。朝8時にChipの携帯へモーニングコール、しかし電源が入っていない。バッテリー切れかも。昨日CM撮りで早起きだったChipは寝不足に違いない。しばらく寝かせておくことに。待ち合わせ時刻をだいぶ過ぎたので向いのホテルに電話しようとしていたらChipから眠そうな声で電話が。
「ごめん寝過ごしちゃった。シャワー浴びてすぐ行くよ」
「じゃあカジノに降りて待ってるよ、昨日の辺りで」
スロットマシーンにドルを寄付しているとほどなくChip元気に登場。そういえば彼は寝起きがいいのだった。タクシーでサンズ会場へ。 ここには主にソフトウェア関係の出展が集まっている。広い会場をまわりながら面白そうなものを探す。Mayaも来年はOS Xで動くようになることだし楽しみは尽きない。Chipは長年FLICKERというショートフィルム・フェスティバルを主催しているので8mm・16mmフィルムをデジタル化する技術の説明を聞いたりしていた。 しばらく歩き回って飲み物を買いに売店へ。Tシャツコーナーがあり物色するChip。「じゃあChipの選んだシャツをプレゼントさせてよ、おそろでお土産にしよう」けれども超デカいサイズしかなくて小柄なChipはTシャツを断念。
12時にSamさんと待ち合わせなのでMicrosoftのWebTVコーナーへ。ロドさんと舟橋さんもいらした。
ここでSamさんから車椅子に乗られたMicrosoft社の方をご紹介いただく。彼は小柄な身体からパワフルなオーラを放っていた。少しお話をし「製品説明は彼の方が得意だから」と聞いて拝見したWebTVのデモは凄く面白かった。クイズ番組を見ながら自ら解答できたり野球中継を見ながら打者の成績を呼び出したりと、番組放送と連動して様々なことができるのだ。クイズ番組は見ているだけより参加できた方がどれだけ面白いかは想像に難くない。テレビ好きの僕としてはわくわくするサービス! そのうえSamさんからWebTVロゴ入りノートPC用キャリングバッグまで頂き乱舞。手提げとストラップのみならずリュックにもなる優れもの!
この後、クピド・フェアの近藤さんをご紹介いただく。ちょうど数日前Samさんから「今度機会があったら、北海道のクピド・フェアさんへ一緒に行こう」と誘っていただいたところだったのだ。『ほぼ日』での糸井重里氏との対談でSamさんが話されていた、クピド・フェアで開発された入力デバイスのエピソードは特に印象的だった。
この後、サンズ・エキスポセンターとつながっているヴェネチアンのメキシカン・レストランへ移動。ここのショッピング・モールはヴェニス風の運河が造ってあってゴンドラまで通っているのが楽しい。SamさんをはじめTV関係の方や近藤さんら10人余りの昼食会に僕とChipも混ぜていただく。和やかなランチタイム。席が隣だった近藤さんがいろいろお話してくださる。穏やかで優しそうな方だった。
食事も終わりに近づいた頃、レストランのすぐそばにブティックが並んでいるのを見てChipが「Andreaにお土産を買わなくちゃ、服がいいかな」
AndreaはChipが長年つきあっているガールフレンド。彼女は現在本を執筆中なのだが〆切が近いので今回は来られなかった。「彼女はプレゼントがなにしろ好きだから」
そりゃあ、プレゼントが好きじゃない女性ってあんまりいないよね。
「じゃあ僕も半分出すから彼女の好きそうな服を選んでよ、シェアしよう」
「OK!」
「今回は何か選ばなきゃだめだよ!」
「わかってるわかってる!」
はりきって買い物に中座したChipは素早くプレゼントを見つけて戻って来た。買った水玉模様のスカートとビーズのバッグを出して見せてくれる。きっと喜んでくれるに違いない。Chipはもうすぐ彼女にプロポーズするつもりなのだそうだ!

この後Samさんはビジネスのため再び別行動に。この旅でSamさんロドさん舟橋さんとご一緒させていただく食事はこの昼食が最後だった。夕方の便でLAに戻るChipはSamさんやロドさん達にお別れの挨拶。僕たちはタクシーでシーザーズ・パレスに戻った。
出発の時間まで、もう一度ブラックジャックしようよとChip。携帯を借りて部屋に電話するとわびすけも降りてきた。ここで再びAndreaへのプレゼントを取り出して見せるChip。こういうところが彼らしい。わびすけのみならずディーラーのおばさんも「可愛い!」「あら〜いいわね〜」とか言ってくれる。こうしてほのぼのと最後のゲームを楽しむ。途中でChipはいたずらっぽく笑うと全額を賭けて勝ち、一気にコインを増やした。今回は僕も負けそうなときは最低額、勝てそうな予感のするときは掛け金を増やしてみる。再びChipは笑って全額を賭ける。その様子から真剣に勝ちを狙っているのでなく遊んでいるのが判る。ディーラーも「アーメン」というかんじでカードをさばく。結果はChipの負け。思わずディーラーもChipに同情。僕のコインを半分わけて再スタート。暫くして三たび全額賭け、今度は勝ち! そろそろ時間なので元手の倍になったあたりでディーラーに何度目かのチップをあげてゲーム終了。今回も山分け、と言いたいところだけどまぁとても山と言えるほどじゃあない。とにかく分ける。「Kyoはいいブラックジャック・プレイヤーだよ!」と言ってくれるChip。もちろん彼のおかげとビギナーズ・ラックに過ぎないんだけど。
Chipを見送りにわびすけとともにカジノの中を通ってタクシー乗り場へと向かう。途中Chipは客のいないルーレット台で脚を止め「Always black !」と映画の台詞のように言って100ドル札1枚を黒に賭けた。もちろん確立は半々。暇そうにしていた3人のディーラーが「勝つといいわね!」と言って勝負の行方を見守る。結果は赤。「あ〜、惜しい!」とディーラー達も残念がる。「前回はこのやり方で勝ったんだけどなぁ」とChip。そう、それがギャンブルっていうもんだよねぇ。
タクシー乗り場で最後の別れ。彼のおかげでこの旅の想い出はいっそう特別なものになった。抱擁。わびすけはまたも涙ぐんでいる。彼の笑顔を瞼に焼きつけタクシーを見送った。次会えるのはいつになるだろうか。いつか東京の街を案内したい。

晩はロドさんがSamさんから預かった軍資金で僕とわびすけの分のマジック・ディナーショーのチケットを買ってくださった。ロドさんと舟橋さんも昨晩観て面白かったそうだ。
「昨日はさー、スロットもいい調子で出てたんだよ」とロドさん。「そしたら横でフナ(舟橋さん)がいきなり600ドル当てて、ひゅ〜っとツキが隣へ行っちゃったんだよ」
「わ〜舟橋さんおめでとうございます!」残念ながらロドさんの夢の大当たりは今回はおあずけのようだ。
マジックショーをライブで観たことがないので嬉しい。ショーはただ食事が付いているというのでなく、ディナーの進行にもマジックがからんだ演出がされておりとても楽しめた。ユーモアと観客参加がふんだんにあり引き込まれる。僕はマジックに使うドル札を提供し、わびすけはトランプのカードをひいたりした。
隣の席になったミシシッピーの中年夫婦からどこ出身かと聞かれる。彼は紡績の仕事をしておりよく大阪に出張するそうだ。
「ミシシッピーというと『トムソーヤーの冒険』を思い出しますよ」と言うと、
「ミシシッピーは貧乏な州さ」と吐き捨てるように言っていて何か意外。そういうものなのか。
いつしか旅先での食事の話に。こっちでお寿司は食べたかと訊かれたので「食べませんよー」と答えると奥さんが、
「まぁ、スシバーに行かないなんて、信じられないわ!おスシ嫌いなの?」
「いえ、アメリカでは食べないだけです」と答えたらテンションの高い4人組の男達が何か爆笑していた。
「あのパチンコっていうやつは、換金もできるの?」とご主人。
「ええできますよ、ラスベガスのスロットマシーンのような一獲千金はないですが。そうそう、都知事が東京にカジノを作りたいって言ってるんで、実現したらぜひ遊びにいらしてください」
2時間たっぷりのショーは盛り沢山でとても面白かった。さすがにエンターテイメントの本場、人を楽しませるのが本当にうまい。英語もそんなに難しくなくてありがたかった。

早いもので、もうこの旅最後の夜だ。そこここでやっているライブ演奏をBGMにちょっとだけスロットマシーンで遊ぶ。でも身体からラッキー電磁波を出すことができない僕達は当然ながら勝てない。スロットマシーンって何だか宝くじみたいだ。そこそこに切り上げ部屋へ戻る。昼間のうちにわびすけが荷造りをすっかり済ませておいてくれたので安心。すると電話が鳴った。初めて聞く女性の声。すぐAndreaだと判る。プレゼントをとても喜んでくれて何より。
「ぜひ東京にも遊びに来てね!」
「ええ、きっと行くわ!」

暫くするとわびすけは寝息をたてはじめた。僕はといえば、何となくまだ不完全燃焼・・・そう、カジノが呼んでいるのだ。ライブ演奏が階下からかすかに聴こえてくるし。個人的にはギャンブルって孤独なものだと思う (笑)。やはり独りで戦うものかな、大袈裟だけど。景気づけにMP3で"Caeser's Palace Blues"を聴いて最後の勝負にでかけた。

写真はマッカラン空港のスロットマシーン.イメージ映像ということで.
やはり機械相手より人間相手、ルーレットのテーブルへ。これをやらないとカジノに来た気がしないしChipの負けを取りかえす目的も。ルーレットはパリに留学していた頃、モナコで一度やったことがある。このときはビギナーズ・ラックで1300フラン勝ち、ニースの滞在費にしたのだった。
髭に長髪のアメリカ人客が一人だけのテーブルに入る。ここのレートは5ドル。レートが高めのシーザーズ・パレスではこれでもテーブルゲームの最低額だ。100ドル札を渡してゲーム開始。僕の作戦は小倍率の縦横のアウトサイドに賭けながら出目の位置を予測していって、タイミングがあってきたら数字にも賭けるというもの。また、高い頻度でゼロとダブルゼロに賭けておく。ゼロを出されるとディーラーの総取りだからだ。
最初のベット、やはりディーラーはダブルゼロに入れてきた。00から3までの5つの数字に賭けていた僕は幸先のいいスタート。口笛を吹く隣のあんちゃん。次も縦横が適中。その次も。隣のあんちゃんは25〜50ドルづつ賭けては「shit !」を連発し、さっきから100ドル札をばんばんスっている。僕がアウトサイドでちまちまヒットすると「Hey, let me do this !」とか言っている。さっきからかなり負けているらしく、熱くなっていてコワい。ジュリエット・ルイスと共演したときのブラピ [註1] のようなトホホな雰囲気になっている。「今夜はいまひとつのれないようですね」とディーラーが声をかける。
「こんなにやられて楽しめるかよ・・・あんたはどうだい?楽しんでるかい」とこちらにふってくるので「ええ、まぁ」と答えるも、こちらも楽しむというほどの余裕はない。予想に反して(?)序盤から続けさまに小倍率をヒットしたため逆に、何となくインサイドに行くタイミングを計りかねていた。そこへ3人目の客が。僕と同年代とおぼしき東洋人。一見して理工系大学出身というかんじだ。「Are you Japanese ?」と英語で訊かれ、「Yes」と答えた後で「あ、そうです」と日本語で答え直す。彼は上海の人だった。たぶんNABに来たのだろうけど、ルーレットは集中が必要なのでクラップスみたいに会話ははずまない。彼はインサイドのあちこちに賭けて36倍を出した。「Wow, great !」「Thanks !」これに刺激を受けて僕も数字に賭け始める。そこへ第4の男が。風貌はレオンの金を預かっているイタリアン・レストランのおやじふう。彼はディーラーが球を投げてからベット終了の仕種をするまでの間に、回転するルーレット盤上の連続した数字に高額チップを並べている。見事ヒット。彼は3〜4回賭けただけで勝ちを1000ドルチップに替えて席を立った。プロかも。ここでディーラー交代。それから予測がズレはじめる。一時はかなり勝っていた上海青年もいつのまにか全てチップを失い2枚目の100ドル札を出している。トホホブラピのあんちゃんはアウトサイドにちまちま賭けてねばっている。こちらはしりつぼみな展開で目の前のコインがじりじり減っていく。う〜ん、やっぱり勝てないもんだなぁ。しばらくすると再び元のディーラーに。しかしズレてしまったタイミングがなかなか戻らない。コインを置こうとしたところディーラーに「No more bet」と制されたらそこが当たりでガクッと落ちこんだり。
そこへさきほどのプロが再びやってきた。前回同様に4〜5回賭けて勝ち席を立つ。当然ながらルーレットは長くやるほど不利なゲーム。残った3人ともコインを置く手が鈍ってきて、ペースが落ち気味。午前4時をまわり、ねばっていた隣のブラピあんちゃんも特大の「shiiit !」を残してついにバーストし、どんよりと去っていく。彼はいったい何千ドルすったのか。残ったアジア人ふたりも冴えない。上海青年は3枚目の100ドル札を出し、僕のコインは残りわずかですっかりあきらめモード。最後のコインを0・00と3箇所のラッキーナンバーに賭けた。「さぁ、もう充分プレイしたんだから部屋に戻って休もう」と思った矢先、起死回生の36倍ヒット! 眠気もふっとび内心(おおっ、ラッキー!)と叫ぶ。
「最後のコインで当たることってあるんですよねぇ」と厳かに言うディーラー。チップ5ドルを彼に。もう少しだけ頑張って、元手の倍の$200ドルを越えたところでゲームを終えた。端数5ドルはディーラーへのチップ。
「This is for you, I really enjoyed」
「Thank you, sir」
上海青年にはグッドラックを言い残して別れたんだけど、その後彼はどうなっただろうか。換金所のおばあさんに2枚のコインを渡し200ドル札を受け取る。2時間以上もかかってやっとChipが一瞬ですった100ドルを取り戻しただけに過ぎないんだけど、何故か金額以上の満足感が。心地よい疲労感とともに眠りについた。[註2]

註1 『カリフォルニア』というよりは『トゥルー・ブルース』な雰囲気でした.トホホ・・・
註2 言うまでもなくこれは長々書いてしまったのが恥ずかしいようなみみっちい結果です.ここまで読んでくれちゃった人,ごめんなさい!
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