16/7/2010

伯母の思い出

昔祖母が描いた伯母の子供の頃
昔祖母が描いた伯母の子供の頃

今年69歳になる伯母(母の姉)が癌で亡くなりました。
伯母のことを考えると、受けてきた影響がいかに大きいかが懐かしく思い出されます。
生前に伝えることができたかどうか判らない感謝と、思い出のいくつかを書いておきたいと思います。

僕がまだ3歳くらいの頃、貰ったばかりの積み木で遊んでいたときのこと。
単純に立方体の上に三角柱を乗せることでプリミティブな家を表現していた僕に、建築家の伯母は細長い角柱で柱を4本立ててから梁を渡し、屋根を斜めに乗せて見せてくれました。
平べったい積み木が斜めに積まれた瞬間、わ!こんなふうにしていいんだ!という驚きと喜びを子供心にも感じて刺激を受けたのを覚えています。
ものを作るときは見方を変えたりして自由に発想していいんだ、という最初の重要なヒントをくれた気がします。
積み木の家

その後小学校入学と同時に両親と離れ祖父母と暮らすことになったので、その二世帯住宅に住んでいた伯母の影響を更に受けるようになりました。
休みの日にはよく伯母のたくさんのレコードを聴かせてもらったものです。ザ・バンドが一番のお気に入りでした。

伯母が僕に言ったことで特に強く覚えているのは、
大学っていうのはサラリーマンになるしかない人が行くところよ
という言葉です。
決してサラリーマンを馬鹿にするような意図ではなく、子供の僕に解りやすいように『サラリーマン=やりたいことの見つからない人』というような文脈で語られていました。
今でこそ学歴の重要性も大学を出ないと就けない職業があることも解っていますが、当時は子供なので単純に「へーそういうものなんだ、大学ってあんまり意味ないんだね」と思ってしまいました。
同居していた祖父は一応日本の最高学府である東大の建築科卒業なのに学歴無視の家だったので説得力倍増でした(おじいちゃんゴメン!苦笑)

普通の人だったら迷っちゃって職業選ぶのが大変だけど、享ちゃんは脚が悪い分選択肢が狭いから迷わなくていいじゃない!」という伯母の屈託のない言葉に、将来の不安も感じず「そうだね!中学出たら漫画家になる!」なんて答えていたものです(笑)
今思えば伯母は進学にも苦労するであろう僕の将来を見越して、悲観せずポジティブに考えるようにこういうことを言ってくれたのかもしれません。
現実に、両親と住んでいた世田谷区では受け入れてくれる小学校がなかったので文京区の祖父母と暮らすことになった訳ですし、入学させれてくれる中学校も簡単には見つかりませんでした。

中学のときはこんなことも。
漢字テストの前日、「辺り」という字のよみがなを伯母に尋ねると「まわり」との回答。
翌日見事に一問だけ不正解となったことを伯母に訴えると「あらそう?アハハ!」
後で知ったのですが伯母は「腕白小僧」を「うでしろこぞう」と読んだという最強な逸話の持ち主だったのです(笑)
ちゃんと調べなきゃいけないよ、といういい教訓になりました。

笑い話ばかりじゃ何なので故人の名誉のために申し上げますが、伯母はとても優れた建築家で、特にインテリアのセンスは抜群でした。
そして高齢出産してからは、尊敬すべき本当に素晴らしい母親でした。
小さい頃たまに叱られるときはコワかったけど、いつも陽気で楽天的。明るい人気者でした。

その伯母が亡くなったと聞いてすぐ伯父に電話をしました。
「やりたいことはみんなしたからもういいのよ」というのが口癖だったそうです。
最期は苦しまず、眠るように穏やかに息をひきとったとのことでした。
お葬式に帰りますと言ったら、「いいよ、大変だからいい、ノリ(伯母)もそういうのは解るから。また会うときがあったらさ、話そうよ」とのことで、伯母が若い頃青春の一時期を過ごしたパリから祈ることにしました。
その頃の笑い話もまた聞きたかった。家族で遊びに来てくれることを期待していたのですがそれは叶いませんでした。

ノリ伯母さん、本当にどうもありがとう。
そしてお疲れ様でした。
いつかまた話しましょう。

  

Comments (21) 追悼文 Tags: — Kyo ICHIDA @ 2010/07/16 07:29

21 Responses to “伯母の思い出”

  1. 医学系舞踏派K 16/7/2010 at 9:01 AM

    謹んでお悔やみを。

    良い言葉を教えて貰いました。

    ##########
    「大学っていうのはサラリーマンになるしかない人が行くところよ」
    という言葉です。
    決してサラリーマンを馬鹿にするような意図ではなく、子供の僕に解りやすいように『サラリーマン=やりたいことの見つからない人』というような文脈で語られていました。
    ##########

    やりたいことが見つからなくても生きてゆけるヒト、がサラリーマン?
    そりゃ死んでます。

  2. takashi 16/7/2010 at 9:32 AM

    うちの素敵な叔母、もっと大事にします。

    大学については、僕も似たような事を思ってましたが、便利だと思います。
    それこそ視点の変化で非常に有意義に使える時間かと。

  3. 16/7/2010 at 9:44 AM

    心から ご冥福をお祈り申し上げます。 パリにいらしてた事もあるのですね。
    きっと!パリ経由で天国に行かれることでしょう。私も今日はKYOさんの伯母さまを想い香をたき合掌させて頂きます。
    お疲れさまでした。おばあちゃまの描かれた絵いいですねー。

  4. cheemaru 16/7/2010 at 10:53 AM

    素敵な話をありがとう

    その人が伝えたかったことって、誰かの心に残るとこうやって伝わっていくんですね
    ご冥福をお祈りいたします

    the song remains the same

  5. kyo 16/7/2010 at 12:58 PM

    ★医学系舞踏派Kさん
    ありがとうございます。
    従姉妹の手術の際はたいへんお世話になりました。
    フランスだとサラリエ(サラリーマン)最強なんですけどね。
    食物連鎖の頂点という訳ではもちろんないけど ;-)

    ★Takashiさん
    そうなんですよ!
    もっとも、大学の便利さと活用法を理解したのはだいぶ後になってからですが。(^^;
    もしかしてアパレルの世界に入ったのは素敵な伯母様の影響とか?

    ★静さん
    どうもありがとうございます。
    若い伯母が当時パリに住んでいた伯母の伯母に空港に着いてすぐ電話をしたら、車で仕事場まで迎えに来るように言われ、知らない街しかも初めての右側通行で大変だったらしいです。女性のドライバー(しかも若い日本人)が当時珍しかったからおまわりさんが優しかったとかなんとか…(^^;

    (祖母は美術教育を受けたことはないんですが、実は家事よりも絵や彫塑が向いていたのでは?と最近家族の間で言われています)

    ★Cheemaruさん
    どうもありがとうございます。
    その様に仰って頂けて嬉しいです。
    伯母も喜んでくれるといいなと…。

  6. mini 16/7/2010 at 3:09 PM

    ワタシも、引き込まれるように読んでしまいました。
    素敵なエピソードをありがとう。
    何かの折にまた、きっと思い出すと思います。ありがとう。

  7. kyo 16/7/2010 at 5:36 PM

    ★miniさん
    こちらこそ読んでくれてどうもありがとう。
    いつか伯母の言葉を思い出してくれて、もしそれが何かの役に立つとしたらとても嬉しいです。

  8. Hew 16/7/2010 at 7:17 PM

    お悔やみを申し上げます。

    kyoちゃんの、3歳の頃の造形感覚を形成するエピソードの記憶は、とっても貴重ですね。

    自由やクリエイティブを追求していた方だったのでしょうね。

  9. kyo 16/7/2010 at 9:05 PM

    ★Hewちゃん、どうもありがとう。
    ほんとそうだと思います。
    文字で説明すると解りにくいんだけど積み木って普通ベタベタ積んでいくじゃない?
    「立て掛ける」みたいな発想がそれまでなかったから、おかげでスイッチが入りました ;-)

  10. 風我 16/7/2010 at 9:53 PM

    うちは昨年の夏から実は両親とも癌を患っていたことが分かり、
    弟共々地の果てで出稼ぎ中だから正直言って気が気じゃない毎日。
    確かにこうなると今までの恩が頭をよぎるんですよね。

  11. kyo 16/7/2010 at 10:37 PM

    ★風我さん
    ええっ、そうなんですか!?
    ご両親とも同時とは……ご心配ですね、胸中お察しします。
    お母様には以前金魚を預かっていただいたりしてたいへんお世話になったんです。
    癌は心の準備をすることのできる病と巷ではよく言いますが、それ以前に治ると信じたいです。

  12. ポルトガル・青目 16/7/2010 at 11:37 PM

    いい、お話です・・・親しくはありませんでしたが、いつも遠くから羨望の思いで見ていた方です。きれいな人でしたね。夫はかなり参っていたようですよ。
    おばぁちゃまの絵・・・びっくりね・・・素晴らしい・・・この色づかいは尋常なものではないですね。素晴らしい・・・本人は、どう思っているのかしらね。

  13. kyo 17/7/2010 at 12:47 AM

    ★青目さん
    独身時代のケバちゃんが伯母にまいっていたのですか!?それはちょっとイイ話 :-)
    この絵を僕はてっきり母が子供の頃に描いたものだとばかり思い込んでいたんです。そうであれば驚きはなかったんですが、祖母が描いたものだとわりと最近聞いて。
    おばあちゃん的にはどうとも思ってないみたいですが、小さい頃の僕の顔を粘土でそっくりに作ったり昔の日記に描いてた挿絵も巧かったんで、主婦してたのはとても勿体なかったかもしれません。

  14. AromaBleu 17/7/2010 at 3:34 AM

    伯母様のご冥福をこころよりお祈り申し上げます。
    生前の伯母様のおことば、わたしにも響いてきました。

    おばあさまの絵!
    素敵☆
    力強いタッチですねぇ。
    お会いしたことはありませんが、
    パトラさんのブログで拝見したおばあさまにも
    絵のお顔が似ていると一瞬思いました。
    (親子でらっしゃるから、当然なのですが…;)

  15. kyo 17/7/2010 at 4:28 AM

    ★AromaBleuさん
    どうもありがとうございます。
    多少お気楽でもポジティブに考えるって大切ですよね、悲観的になればなるほど人生を余計に難しくしてしまう気がして。
    そういったことも学んだ気がします。

    おばあちゃんにはもっと絵を描いてほしかったです、本人あまり興味がないみたいなのが残念…(^^;

    #蛇足で説明図つけちゃいました(笑)

  16. AromaBleu 17/7/2010 at 5:01 AM

    パルテノン神殿のよう…w

  17. mg 17/7/2010 at 10:48 AM

    心からご冥福をお祈りいたします。

    素敵な方ですね!積み木の話もキュンとしました。(しかも説明図付き!さすがkyoさん!!)
    やわらかな自由な発想!まさにkyoさんはしっかりと受け継がれていますね。
    お話伺えて良かったです。ありがとうございます。

  18. kyo 17/7/2010 at 11:26 AM

    ★AromaBleuさん
    確かに!(笑)

    ★Mgさん
    どうもありがとうございます。
    受け継いだものをちゃんと活かせているといいのだけど…頑張ります!

  19. kano 17/7/2010 at 12:29 PM

    なんだか、人は、亡くなってからも、誰かに語られるとき、
    きらりと光りを放ち、その繋がりのなかに
    生きていくのかもしれないと思いました。
    kyoさんに素敵に語らせるおばさまは、きっと本当に素敵な
    方だったのでしょうね。ご冥福をお祈りいたします。

  20. kyo 17/7/2010 at 1:46 PM

    ★Kanoさん
    わ、凄く素敵な表現ですね!さすが!
    そう思っていただけたなら書いてよかったです。
    どうもありがとうございます。

  21. kyo 18/7/2010 at 5:17 PM

    「伯母」と書くべきところ「叔母」って変換してました!(><) 昔も今も漢字がダメだめというオチなのか…(爆) コメント欄で合わせてくださった皆様、すみませんでした。みんなイイ人だ! どうしようかと思ったんですが伯母に申し訳ないから修正させていただきました。m(_ _)m 伯母も「あらそう?アハハ!」と笑ったことでしょう。