最終日
今日は月曜日。殆どの宿泊客は昨日チェックアウトしたのだろう、週末は車がびっしり並んでいたホテル前のスペースも今は寂しくガランと空いていてちょっと取り残された感。
朝食をとってから三泊したホテルにさよなら。
エレベーターが動かなかったり深夜ディスコがうるさかったりはあったけれど程よい規模で快適だった。
マチス美術館
帰る前にせっかくだからとマチス美術館へ。建物正面は階段だけど、車イスは裏に回ると入れるようになっている。
飛行機の時間を考えるとあまりゆっくりできないけど、行ってみると慌てずじっくり観たくなった。すぐに携帯でエールフランスに電話して飛行機を遅めの時間帯に変更してもらうことに。便の変更が簡単にできることだけがエアフラにしたメリットだったかも。これで時間を気にせず安心して回れる。
コレクションは充実していてゆっくり楽めた。マチスの作品は今回の素晴らしかった南仏旅行の贅沢なデザートのようだった。
美術館から出て車を停めたところに戻るとちょうどお巡りさんが駐車違反を取り締まっていた。証明書なしで車椅子用スペースに停めていたのであやうく罰金を切られるところだった。
「マカロン(車椅子スペースに停めるための許可証)持ってないのかい?」
「持ってません、これレンタカーですし」
「君は車椅子だってわかったからいいけど」と言いながらもう一台の車には違反切符を貼っていた。
当時はまだ車を持っていなかったので車椅子スペースに駐車するためのカードも持っていなかったんだけど、ヨーロッパ以外の海外から来る車イスの旅行者はどうしたらいいんだろう?
なにはともあれ、違反切符を切られなくて良かった。
ガソリンを入れて空港で車を返却。あとは飛行機に乗るだけだ。帰りの便は何も問題はなかった。まぁ当たり前のように定刻より遅れていたけれど。
こうして思い出に残る南仏の旅は終わり、そして数日してまみさんは元気な男の子を無事出産した。
十年後
訃報は突然だった。とはいえその表現が適切かわからない。まみさんがご病気で亡くなって既に1年経っているというのだ。びっくりしてローラン・まみさん夫妻を紹介してくれた友人に問い合わせると、約2年前、癌が発見されたときにはもう既に末期の状態だったのだそうだ。その友人を含め、ほとんど誰もそのことを知らされていなかったばかりか、亡くなったことも知らなかった。その友人はまみさんのお母さんとも親しいのだが、おそらくは本人の希望で秘密だったのだろう。
ショックだった。まみさんは3人の男の子のお母さんだ。まだ小さい子どもたちを遺して旅立たねばならなかった心情は気の毒すぎて察することも難しい。
最初の子供が生まれてから1年くらい経った頃だっただろうか、この子に兄弟を作りたい、そのためには親の助けが必要、と言って日本の実家近くへ移住を決めたのだった。以来だんだんと疎遠になってしまっていた。
これを書いている間、当時のいろいろなことを思い出して記憶を反芻する時間を持ちたかった。彼女は素晴らしい思い出をくれたけれど、結局力にはなれなかった。何も。幸せな時間は束の間で、明日どうなるのかはわからない。できることは何もない。ただ短くとも確かにあった共有した時間を思い出して懐かしみ、感謝することしか。
ローランがSNSに子ども達の写真を載せていた。とても美しい子ども達だった。