28/11/2020

そして再びロックダウン

 

夜間外出禁止が充分な効果を挙げないと見るや、再びロックダウンの決定が下されるのに時間はかからなかった。
けれども感染者数も死亡者数もなかなか減らない。*
いったいどうなっちゃってるんだろう?
数百人の人々が連日コロナで亡くなっている。

春のロックダウンのときはルルちゃんの看病にかかりきりだったので、ある意味気が紛れていた。
それに普段から出不精なので外出禁止は苦にはならない。
ただ、全く外食できないと食事の支度が大変だし、誰かが作ってくれたものを食べて休めないと辛いだろう。

妻は以前から「寒くなる頃またロックダウンになる」って予想して、必要なものをコツコツ揃えて備えていてくれた。
そのおかげで不自由なく快適に暮らせているし、毎週歯医者に通っているので完全に閉じこもりきりではないけれど、それはそれで別の心配事はある。
巷で囁かれる、アジア人に対する攻撃だ。

新型コロナウイルスの発生源である中国が情報を隠蔽したことで被害が拡大したとして、アジア人に対する差別的行為を呼びかけるSNSが拡散していると報道された。
以前からアジア系への嫌がらせや暴力の噂は聞いたことがあった。

最初のロックダウンが終わって、外出は正直なところ緊張した。
家族をなくした人もいるだろうし、あまりに大きな経済的損失やストレスがどういう影響を人身にもたらしているか不安だった。

けれども蓋を開けてみれば実際は、何処へ行っても嫌な思いをすることは皆無だった。
レストランでも、カフェでも、動物病院でも、お店でも、ガレージでも、薬局や歯医者でも。
皆親切だし、何も変わらない。変わったのはマスクをしていることだけだ。
地域にもよるのかもしれないけれど、皆理性的だと思う。

ただ、自分が嫌な思いをしていないから全く問題がないと言えないことは解っている。
実際に被害に遭った話も聞くし友人は暴言を浴びせられたそうだ。
そしてこれはもちろんフランスに限った話ではない。

ニューヨークで活動するジャズピアニストの海野雅威さんがハーレムで(どうやら中国人と間違えられて)襲撃されて大怪我を負ったのが記憶に新しい。
ほとんどの日本人に欧米人の国籍の見分けがつかないように、暴漢たちにもアジア人の見分けはつかない。いや例え見分けがついても中国人を襲うのは間違っており何の解決にもならないことは、まともな人なら誰でも解っている。

それでも暴力で鬱憤を晴らそうとする人間が少なからずいるのは残念なこの世の常だ。
憤懣の矛先が自分に向けられなかったのは運が良かっただけかもしれないが、それでもこれまでの自分の経験がフランスへの信頼を醸成している。

ぼくたち夫婦が住んでいるアパートは人種的にかなり多様性がある。
右隣はアラブ人の大家族で、引っ越して初めて会ったとき「困ったときがあったらいつでも言うんだよ」と声をかけてくれて嬉しかった。
他の住民もみな感じがいい人たちばかりだ。

シャイヨ宮から見たエッフェル塔

けれどもコロナ禍や、イスラムの宗教指導者によるフランスへの攻撃の呼びかけなども見るにつけ、ユーゴスラビア紛争のことが頭をよぎる。

多民族・多宗教だったユーゴスラビア連邦共和国は90年代にちょうどベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統合されたのとは対照的に、民族紛争で分裂した。
その際、ジェノサイドが起き、凄惨な暴力は紛争前までは親しげだった近隣の住民同士の間でもたらされた。
宗教に根ざした民族主義の前では多文化共生は理想論に過ぎないのだろうか。

苦労して権力としての宗教から脱却したはずのフランスで、移民の融合に努力してきたこの共和国で、今なお軋轢は絶えない。

そして、警官を撮影し悪意をもって拡散することを禁ずる法案審議に対する激しい抗議と、そんな最中に起きた警官による黒人音楽プロデューサーへの暴力…。

フランスの受難はまだまだ続きそうだけれど、一市民としてできることを考えながら日常を静かに淡々と過ごしている。
怖さはない。今はまだ。

  

Comments (0) フランス Tags: — Kyo ICHIDA @ 2020/11/28 22:22