ぼくが小学校三年生くらいだった頃、通っていた小学校の近くにときどき片目の犬が出没することがあった。
子供時代にたくさんあった怖いもののひとつだ。
大きな犬だし何しろ片目なので、不吉な感じがして同級生の間でとても恐れられていた。
今では考えにくいけれど、昭和の当時は飼い主不詳の野良がまだ東京の真ん中にいたのだった。
ある日ぼくは学校の図書室でシャーロックホームズ・シリーズの『呪いの魔犬』という本を借りて、放課後いつもよりちょっと遅めの時間帯にひとりで下校した。
すると帰り路、今までは遠目にしか見たことのなかった片目の犬が、ゆっくり近付いて来るではないか。
潰れた目はかさぶたがグロテスクに腫れ上がっている。
そして恐ろしいことにぼくについて来る。
通りにはひと気がほとんどない。
だんだん距離を詰め、付き纏ってくるので怖くてたまらず、近くの書店に逃げ込んだ。
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