何かDVDで映画でも観ようということになったけど何を選ぶかが難しい。そこで適当に何枚かのディスクをタイトルが見えないように裏返しに並べてわびすけに選んでもらった。手をかざしたりにおいをかいだりして精神を集中している(らしい)。ちなみに彼女が狙っているのはティム・バートン製作の『ジャイアント・ピーチ』。
「これがいちばん熱くてフルーティーな香りがする!」と言って自信ありげに選んだのは…よりによって最も恐れていた「エクソシスト・ディレクターズカット版」だった(なんでやねん!)
ロラン爺さんと猫のマムー
モンパルナスでよく会う大きな猫を連れたホームレスのロラン爺さん。彼と愛猫マムーは凄く仲がいい。というかお互いをよりどころに都会でひっそり生きて行くふたり…というような暗さは無く、彼にとってマムーは恋人であり守神のようなものでもある。マムーも彼のことばを理解しよく言うことをきく。
挨拶して猫を撫でるのが日課だったのだけど、しばらく見かけない日が続いていた。
2ケ月くらい経った頃、久しぶりにいつもの場所に座っていたのでポケットの小銭を普段よりちょっと多めにかき集めながら挨拶し、少しやつれた彼にどうしたの?と聞くと、
「病気してたんじゃよ」と、いつもの笑顔がちょっとだけ曇った。そして思いがけない提案。
「カメラを持ってたらこんど持ってきてくれんかね、一緒に写真を撮ろう」
翌週の雨の降っていない日にカメラを持ってくることを約束して別れた後、何だか不安になった。ひょっとしたら彼は自分がもうあまりもたないと感じているのでは?それでささやかな存在証明として写真を残したいと思ったのではないか?とか…。老人と老猫、どちらかが先に逝ってしまったら残された方はどうなるんだろう…。
約束の日、いつもと変わらず彼は機嫌がよかった。
「現像したらくれんかね、いつでもいいから」と言うロラン爺さんのことばに、何となくほっとした。
つぶやき
移り気
パリのApple Expo 2002にでも行ってみるかとタクシーでパリのはずれPorte de Versaillesへ向かう。途中通りかかった15区のLecourbe通りでアンティークの市場が開かれていて渋滞した。
「ここは毎週こうなんですか?」とタクシードライバーに訊ねると、
「いえ例外ですよ、年に一度です。やってるって知ってたら通らなかったんですけどねぇ」
「停めてもらえますか?こっちの方が面白そうなんで!」
結局エキスポの特売ソフトやハードはとってもアナログな、小さな引出しが12個ついた小物入れの古い棚とリモージュのアールデコ風ティーセットに変身。
ヘミングウェイは寿司ブームを予測し得たか
ヘミングウェイの『老人と海』で老漁師が何日も巨大カジキと格闘しながら、空腹を癒すため片手でさばいた生魚を食べて「せめてライムがあればな…」とか呟く部分。欧米の読者は「生魚を食べなきゃならないなんて恐ろしい!可哀そう」みたいに思っただろうけど、「サンチャゴ爺さんに醤油をあげたいっ」と熱望したのは僕だけではないはず。